難聴亭日乗

つれづれなるままに その日ぐらし

7/30 アリスインデッドリースクール ビヨンド OSAKA

 

生きた人間が、だんだん死体に変わっていく。この恐怖を、長妻美玖演じる辻井水貴は「あたりまえのこと」だと斬り捨てる。「生きていたっていつか死ぬ。みんな少しずつ死体に変わっていくだけ」だと。

どこまでが人間で、どこからが死者なのだろう。

 

むかし観たモーニング娘。の舞台『ステーシーズ 少女再殺歌劇』を思い出す。

14から16までの少女が突然死に蘇る。歩き回る屍をもう一度闇に帰す「再殺権」は親族・恋人にのみ許され、彼らはかつて愛する人だったそれを165分割以上の肉塊へと解体する。

福田恆存が書いていた「愛欲は閉ぢられた世界であり、その底に沈殿して行けば、たとへ外部からの干渉や妨害が無くても、といふ事はそれ自身の完成の爲にも、死を必要とせずには濟まされぬものである」というシェイクスピアの解題を思い出す。残酷だが、これがひとつの愛の完成だ。

しかし劇中には、変わり果てた恋人を匿い、最後まで共に「生きよう」とした者も居た。これも彼の愛に違いない。愛、そして生死というものはなんと微妙なものか。

 

 

話を今回の舞台に戻す。

『アリスインデッドリースクール』は、アリスインプロジェクトの原点であり、改訂を重ねこれまで幾度も再演されてきた人気作なのだそうだ。

ある日突然崩壊する日常。動く屍から逃げ延びた少女たちが屋上で繰り広げる、強烈に人間らしい「生」の物語。

 

パンフレットにあった「取り残された屋上で、彼女たちが恐怖と戦い、飲み込まれ、それでも頑張って生きるために成長しようとする姿は、そのままキャストたちの今を反映しています」という演出・扇田賢氏の言葉そのままに、演技経験のまだ少ない少女たちが、プレッシャーや不安と戦い、稽古を重ね、皆で舞台を成功させようと奮闘する姿を、屋上の彼女たちに見た。

絶望的な世界の中で、彼女たちの「夢」と「絆」がキラキラと輝いていた。ものすごくいい演目だと思った。

 
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昨年の『クォンタムドールズOSAKA』に引き続いての出演となった横野すみれは今回、W主演の一人という大役を任せられた。百村信子は、すーちゃんの所属するiDOL Street ストリート生の中から、過去に東京で武井紗聖が演じた役柄である。(札幌では卒業生の吉村ほのかも演じていた)

 

そういうプレッシャーや不安の中でも、楽しんで毎日の稽古に励んでいたすーちゃん。

「この舞台観なかったらぜったい後悔すると思うよ!」「すみれのお芝居してる姿、観にきてね」の言葉から感じられる自信は、その裏に、出来なくて悔しくて泣いたこと、日に100回は踊り込んだこと、風邪を引いて寝込んだとき稽古がかなり進んだのを心配して台本と一緒に寝たこと等々があったのを知っているからこそ力強く響いた。

 
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肥川彩愛演じる墨尾優と百村信子は、ノ☆ビューンという漫才コンビを組んでいる。絶望に包まれた世界でも、二人は周りを笑わせる。優の無邪気で変幻自在なボケを、ノブが上手く拾い、敷衍し、伝えていく。屋上の皆は、死に直面した状況ながらも、思わず笑みをこぼす。そうして、生きていることを実感する。二人の生み出す「笑い」から生が広がっていくのを感じ、人間が「笑う」ということについて深く考えさせられた。

 

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ノブと優の息がぴったりで、客席からも笑い声がちらほら聴かれた。すーちゃん曰く、関西弁での漫才を聞き慣れているので、標準語は難しく、東京の漫才師のネタを見てよく勉強したのだそうだ。普段はポワンとした印象のあの子があれだけキレのある、それでいて嫌味のない自然な標準語のツッコミをものにしていたのは、相当の努力が窺われた。

 

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序盤の息がぴったりだったのもあって、終盤、ノブが衰弱して「…うん」としか返せなくなったシーンは余計つらかった。

とても難しい場面だったと思う。「うん」のタイミングが一秒遅い、または早いだけでも大幅に印象は変わってくるだろう。私は30日の千秋楽一公演しか観ていないので較べようがないのだが、特典会でこの演技についてすーちゃんに訊いたところ「その日によって早い遅いは違った」と言っていた。「この日が一番よくできた」とも答えていた。千秋楽のあれは、公演期間中に試行錯誤の末摑みとった、畢竟の「間」だった。

 

印象に残ったシーンで言うと、やはり「主役は最後に登場するんだよ」が強い。

たしかにあのときノブは、優の「可能性」の中に登場した。その事実は永遠に消えぬだろう。目が覚めて一人になった優は、昔の一人だったころの優とは違う。

一人じゃどうしていいかわからなかった優が、「今日はどこへ行こう」と歩み出せたのは、ノブと共に在るからだ。きっと、向こう側にだって行ける。

 
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主役以外も非常にキャラが立っていたので、ノ☆ビューン以外にも魅力的なコンビが多々ある。特に好きなのは、辻井水貴と堂本千百合。厭世的で人と関わりたがらない、しかしどこかで寂しがっているひねくれ者の水貴に、堂本さんがしつこくくっついているさまは微笑ましい。

生徒会長の青池和磨や、不良の紅島も好きなキャラクターである。会長の最期は本当につらくて涙が止まらなかった。

 

そういう好きなキャラクターや、好きなコンビが、終演後の挨拶で一斉に登場する。ノ☆ビューンが最後にキメのポーズを披露して屋上の扉から退場して行くのを見て、これは舞台でしか味わえぬ瞬間だなと思った。しあわせとせつなさと入り混じった感情で送り出した。

 

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小林秀雄は「毎日新しく幕があく。役者はその日その日の出來不出來で、氣心の知れぬ見物と協力して、まことに不安定な、脆弱な、動き易く、變り易い、又それ故に生きてゐる世界を創り出す。芝居は其處にしかない」と言っていた。いい芝居が観られた。

 

すーちゃんが最後の挨拶で「これからもお芝居に関わっていきたい」と言っていたのがとても嬉しかった。その夜のブログで「すみれはお芝居が大好き」と書いていたのも。

またの機会が楽しみである。そして、今回共演した皆ともまた会えるといい。お互い、パンフレットに書いた夢を叶えて。